労働者に関わる労災制度
アスベストを含む建築物の解体や除去は、労働者にとってリスクの大きい作業です。しかし、現在は万が一に備えた労災制度も存在します。ここでは、労災制度の特徴や対象者、請求方法などについてまとめています。労災の申請を検討中の方、制度について概要を知りたい方は参考にしてください。
アスベストの労災制度発足までの経緯
アスベストによる日本での労災認定は、1973年に行われました。1977年には、当時の労働省が石綿肺や肺がん、中皮腫などの労災認定の基準を策定しましたが、アスベストの危険性は社会的に浸透しているとは言いがたい状況でした。
社会的な転機が訪れたのは2005年の夏。とあるメーカーで働いていた従業員や、工場が立地する地域の住民らがアスベスト関連の疾病にかかり、多数の死者が出ていることを発表しました。この事件をきっかけにアスベストの注目を集め、危険な物質であるとの認識が広まったのです。
同年冬に政府はアスベスト問題を話し合う関係閣僚会合を開き、救済も含めた総合的な対策方法を取りまとめました。その中には、労災についての周知徹底や、労災の対象とならない被害者に対し、救済制度を確保することも盛り込まれました。そして2006年2月、国会で石綿による健康被害の救済に関する法律が成立しました。
アスベストの労災制度の認定要件とは?
アスベストの労災制度は、疾病の種類により認定基準が異なっています。ここでは、疾病ごとの労災の認定要件について解説します。
石綿肺(じん肺)の認定要件
石綿肺(じん肺)の労災認定要件は次のとおり。下記のいずれかを満たしている必要があります。
- じん肺管理区分が4
- じん肺管理2または3の場合、次のいずれかの合併症にかかっている
肺結核・結核性胸膜炎・続発性気管支炎・続発性気管支拡張症・続発性気胸
じん肺管理区分が4の方は、合併症の有無に関わらず労災認定されます。一方、じん肺管理2または3の方は、肺結核や結核性胸膜炎など、特定の疾病を併発していることが条件となっています。
肺がんの認定要件
肺がんは、以下のいずれかの条件に該当すると労災認定が受けられます。
- 第1型以上の石綿肺を併発している
- びまん性胸膜肥厚を併発している
- 石綿ばく露作業に10年以上従事し、胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)がある
- 石綿ばく露作業に1年以上従事し、石綿小体または石綿繊維が見られる
- 石綿ばく露作業に1年以上従事し、広範囲に胸膜プラークがある
- 石綿吹付けや石綿紡織品または石綿セメント製品の製造に5年以上従事した
石綿肺やびまん性胸膜肥厚を併発している方のほか、一定期間アスベスト関連の作業に従事した方などが労災の対象となります。
注意したいのは、アスベストが原因で肺がんになった根拠を求められる可能性がある点です。肺がんは喫煙などの生活習慣も影響するため、石綿ばく露作業などへ従事した記録や証明を求められたら、提出できるようにしておきましょう。
中皮腫の認定要件
中皮腫の労災認定要件は、以下のいずれかに該当する方です。
- 第1型以上の石綿肺+中皮腫と診断された
- 石綿ばく露作業に1年以上従事し、中皮腫と診断された
第1型以上の石綿肺に中皮腫と診断されるか、中皮腫と診断され、かつ過去に1年以上石綿ばく露作業へ従事した場合に労災認定が受けられます。
びまん性胸膜肥厚の認定要件
びまん性胸膜肥厚の労災認定要件は、以下の全てを満たしている必要があります。
- 石綿ばく露作業に3年以上従事した
- 呼吸に著しい機能障害が認められる
- 片側のみの場合は2分の1・両側の場合は4分の1以上肥厚が広がっている
3年以上石綿ばく露作業従事しても、びまん性胸膜肥厚を発症したのみでは労災と認められません。呼吸機能障害があり、一定以上に肥厚が広がっている必要があります。
良性石綿胸水の認定要件
良性石綿胸水の労災認定要件は、個々の患者のケースに応じて異なります。厚生労働省と労働局が協議を実施し、労災の可否について判断を行います。胸水はリウマチなど、さまざまな原因があるため、アスベストが原因か判断する必要があるためです。
アスベストの労災認定を申請・請求する流れ
アスベストの労災申請・請求から認定までの大まかな流れをご紹介します。
- 本人または遺族が最寄りの労働局か労働基準監督署へ相談する
- 補償の種類に応じた保険給付請求書を記入する
- 当時働いていた事業所の所在地を管轄する労働基準監督署へ保険給付請求書を提出する
まずは最寄りの労働局・労働基準監督署を探し、アスベストの労災認定について相談してみましょう。次に必要な書類を準備し、補償の種類に合わせた保険給付請求書を記入します。そして当時働いていた事業所の所在地にある労働基準監督署へ提出します。保険給付請求書の提出先は、お住まいの都道府県とは異なります。分からない方は最寄りの労働局・労働基準監督署で相談してみましょう。
なお、全国の労働基準監督署は下記のページからお探しください。
まずは労災認定の申請から始めよう
アスベストは、長い月日を経てから健康被害を及ぼす場合も珍しくありません。例えば昭和41年10月から42年4月にかけ石綿ばく露作業に従事し、平成23年に中皮腫と診断されたケースもあります。このケースは業務上の疾病と判断され、労災と認定されたようです。
いずれにせよ、アスベストは健康上大きなリスクをもたらします。労災制度がなければ、より大きな社会問題となっていたかもしれません。