アスベストに関する法令
アスベストに関する法律の中で、特に覚えておきたいのは調査に関する法律の大幅な改正です。2022年4月より、一定の規模・金額を超える解体・改修工事では、アスベストの事前調査と報告が義務化されました。
また、2023年10月1日以降は資格要件も新設され、特定の有資格者か、条件を満たす者しかアスベストに関する調査ができなくなりました。
2022年時点で法令として定められているもの
アスベストに関する規制や規則は多数ありますが、2022年時点で押さえておきたいのは次の点です。
- 成形板(レベル3建材)も規制対象になった
- 直接罰の新設(レベル1・レベル2が対象)
- 所定の条件に該当する工事の場合、事前調査と報告が義務化(2022年4月1日〜)
- 事前調査に関する記録の作成と結果の保存(3年間)が義務化
- アスベストの調査は有資格者のみが可能に(2023年10月1日〜)
特に注意したいのは、事前調査の義務化と調査に関する資格要件の制定です。施行のタイミングが異なりますので、混同しないよう注意しましょう。
また、直接罰も新設されています。違法なアスベストの除去工事を行った業者に対し、懲役3ヶ月以下または30万以下の罰金が課せられます。
アスベスト調査・除去に
関する資格
一定規模以上の工事の事前調査が義務化されるなど、年々規制が厳しくなっているアスベスト。相対的にアスベストに関する豊富な知識を持つ、有資格者の重要性が高まっています。関連する資格は色々ありますが、主な資格は石綿作業主任者、建築物石綿含有建材調査者、アスベスト診断士の3つです。一部の資格は、2023年10月施行の有資格者によるアスベスト調査の要件を満たしています。
アスベスト調査の流れ
アスベストの調査は、最初に事前調査から始まります。事前調査は、設計図や施工図など資料を元にした署名調査と、現場を直接確認する目視(現地)調査を行い、アスベスト含有の有無を調べます。もし事前調査でアスベストの有無が分からなかった時は、分析調査を実施します。
分析調査では、建材のサンプルを顕微鏡やX線回折装置で調べ、アスベストの含有量や種類の特定を行います。
アスベストに関する制度
アスベストに関わる制度は3つに大別できます。健康被害に関わる給付金制度は、アスベストで特定の疾病になった本人や、遺族を対象に給付金を支給しています。労災制度は、アスベストで健康被害を受けた労働者が対象で、一部アスベスト関連の作業に従事した期間も影響します。
アスベストの調査・除去に関する補助金制度は、自治体によって補助金額や条件が異なるほか、制度そのものが存在しないケースもあるため、事前の確認が必要です。
アスベストに必要な届け出
アスベストの調査や除去工事をする際は、工事計画届や建築物解体等届出書など、レベルに応じた届け出をしなくてはいけません。また、届け出の種類によって届出先や届出義務者が変わったり、自治体によっては条例で独自の届け出を定めているため事前の確認が重要です。
届け出の期限もあるため、工事のスケジュールが延びないよう、早めの提出に努めましょう。
アスベストに関するコラム
なぜアスベスト除去は必要なのか?
アスベストは危険な物質で、中皮腫や石綿肺などの疾病を引き起こします。髪の毛の数千分の一と細く、容易に空気中へ飛散してしまう危険性があります。もし飛散したアスベストを吸ってしまった場合、健康被害を及ぼす危険があります。このようなリスクを抑えるには、アスベストの除去工事や封じ込め・囲い込みが必要です。
アスベストによる健康被害は、2005年の「クボタショック」で大きな社会問題となりました。工場の作業員のみならず、周辺住民もアスベストの健康被害を受けていたのです。その後は段階的に規制が強化され、現在はアスベストの使用が禁止されています。
アスベストの法令が定められた経緯や意図
今では法律で厳しく規制されているアスベストですが、実は1970年代から規制は始まっていました。最初の規制は1971年、特定化学物質等障害予防規則(特化則)が制定され、排気装置の設置など、アスベストの取り扱い方法が定められました。
また、1975年には特化則を改正し、含有率が5%を超えるアスベストの吹付け作業が禁止に。1987年には、建築物耐火構造規定からアスベストが除外されました。
以降も法律は改正され、2004年にはアスベストを1%以上含む建材の製造や提供などが禁止になりました。翌年にはいわゆるクボタ・ショックが発生し、アスベストの危険性が広く知れ渡ることに。
そして2006年建築基準法や労働安全衛生法施行令が改正され、アスベストを0.1%以上含む製品の製造や輸入、建築物への使用が禁止になりました。
アスベストは時代とともに規制が強化されていますが、1970年代当時から危険性が認識されていたと考えられます。しかし、全面禁止となったのは2006年で、前年に起きたクボタ・ショックが影響しているでしょう。なお、今後もアスベストに関わる法律の改正や、規制が強化される可能性はあります。
国や自治体がアスベスト除去に関して重要視していること
国や自治体が、アスベストの除去に関して重要視しているのが調査です。除去工事をするためには、調査でアスベスト含有の有無や、含有率、アスベストの種類などを調べることが求められます。
また、2022年4月1日以降、一定規模以上の建築物を解体・回収する際は、アスベストの事前調査が義務化されました。ますます調査の重要性が高まっています。
事前調査では、文書と目視による調査を行い、電子システムから報告する必要があります。アスベストのばく露による健康被害の予防が目的で、アスベストの有無に関わらず報告しなくてはいけません。手間は増えますが、事前調査を徹底すれば、作業員をアスベストから守ることができます。
アスベストの使用状況が判明すれば、周辺環境への飛散を防ぎ、適切な除去や処理も可能になるでしょう。