健康被害に関わる給付金制度
蓄積すると、肺に健康被害を及ぼすアスベスト。ある期間内にアスベストを取り扱う現場に従事していたなど、もし所定の条件を満たしている場合、給付金を受け取れる可能性があります。ここでは、アスベストの健康被害に関わる給付金制度について、経緯や金額・対象者などを詳しくご紹介します。
アスベストの給付金が成立するまでの経緯
アスベストの危険性を把握しながら、石綿を含む建材を販売し続けたメーカーや、規制しなかった国に対して、損害賠償を求めた「建設アスベスト訴訟」。2008年に訴訟が始まり、2021年5月17日に最高裁判決で国の敗訴が確定しました。この判決では、1975年〜2004年に建設業務へ従事し、アスベストで健康被害を被った方に対して、国とメーカーの賠償責任を認めました。
そして同年6月9日、議員立法によって「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」が成立。2022年1月19日より施行され、所定の条件を満たした方や、その遺族に対して、後述する給付金の支払いを行っています。
アスベストの給付金の主な内容と対象者
ここからは、アスベストの健康被害に関わる給付金について、仕組みや金額、対象者について解説していきます。
給付金の仕組み
アスベストの健康被害に関わる給付金は、以下の流れで審査や給付金の支給が行われます。
- 給付金請求者は厚生労働省へ申請する
- 厚生労働省が認定審査会に審査を依頼する
- 認定審査会が審査、結果を厚生労働省へ通知する
- 厚生労働省が給付金請求者へ認定結果を通知
- 結果に基づき労働者健康安全機構から給付金が支払われる
請求者は、基本的に厚生労働省へ申請するのみで、審査や給付金の支給は他の機関が実施します。書類や追加資料の提出に関するやり取りも厚生労働省と行います。
給付金の金額
アスベストで健康被害を受けた場合、病態区分に応じて以下の金額が支払われます(2022年2月時点)。
病態区分 | 合併症なし | 合併症あり |
---|---|---|
石綿肺管理2 | 550万円 | 700万円 |
石綿肺管理3 | 800万円 | 950万円 |
中皮腫・肺がん・びまん性胸膜肥厚 | 1,150万円 | 1,150万円 |
石綿肺管理2により死亡した場合 | 1,200万円 | 1,300万円 |
石綿肺管理3により死亡した場合 | 1,200万円 | 1,300万円 |
石綿肺については、管理区分と合併症の有無によって金額が変わります。例えば石綿肺2・合併症なしの場合は550万円ですが、石綿肺3になると800万円が支給されます。また、合併症ありのケースでは150万円が上乗せされます。
一方、石綿肺により対象者がすでに亡くなっている場合、遺族に対して1,200万円または1,300万円が支払われます。なお、石綿肺の管理区分に関わらず金額は同一です。
ただし、アスベストにさらされる建設業務への従事期間が一定未満の方や、肺がんで喫煙習慣があった方は、給付金額が1割減額されることがあります。
給付金が支給される対象者
給付金の支払いを受けられるのは、次の3つの条件を満たしている方です。
- 以下の期間、アスベストにさらされる建設業務へ従事していた
昭和47(1972)年10月1日〜昭和50(1975)年9月30日:石綿の吹付け作業
昭和50年10月1日〜平成16(2004)年9月30日:屋内での建設業務 - 石綿に関連する疾病にかかった
- 労働者か労働者や、一人親方または中小事業主(家族従事者含む)であること
主にアスベストの吹付け作業や屋内での作業に従事し、石綿関連の疾病にかかった方が対象です。なお、屋外作業に従事していた方は対象外となっています。
アスベストの給付金を請求する方法
給付金を請求するためには、所定の方法に沿って申請する必要があります。
労災支給決定等情報提供サービスを利用している場合
まず以下の書類を準備しましょう。
- 特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等請求書
- 労災支給決定等情報提供サービスの通知書のコピー
- 銀行口座の通帳またはカードのコピー
- (本人が死亡している場合)死亡届の記載事項証明書
特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等請求書は、厚生労働省のホームページより入手できます。
上記を揃え、下記の住所へ簡易書留など、配達状況が確認できる方法で郵送しましょう。
〒100-8916
東京都千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎第5号館
厚生労働省労働基準局労災管理課 建設アスベスト給付金担当 あて
郵送以外での受付はしていないとのことです。
労災支給決定等情報提供サービスを受けていない場合
労災支給決定等情報提供サービスを受けていない方は、以下の書類を準備しましょう。
- 特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等請求書
- 本人確認書類(住民票の写しなど)
- 就業歴や石綿ばく露作業歴が確認できる資料
- 石綿関連疾病にかかっていることを証明する資料(石綿計測結果報告書など)
- 銀行口座の通帳またはカードのコピー
本人が亡くなっている(遺族が請求する)場合、次の書類も必要です。
- 死亡届の記載事項証明書
- 戸籍謄本や全部事項証明書など(発行から3ヶ月以内のもの)
書類を全て揃えたら、下記の住所に配達状況が確認できる方法で郵送します。
〒100-8916
東京都千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎第5号館
厚生労働省労働基準局労災管理課 建設アスベスト給付金担当 あて
対象者は速やかに申請を
アスベストによる被ばくは、今なお労災認定の請求や決定が年間1,000件以上のペースで実施されています。例えば2020年には、アスベストに関連した労災保険給付の請求が1,085件ありました。決して低い水準ではありません。
2022年より始まったアスベストの健康被害に関わる給付金は、本人または遺族が請求できます。アスベストによって健康被害を受けた方は速やかな申請をおすすめします。